至誠通天

良い行いも悪い行いも、お天道様はご照覧

4試合目はサウスポー

僕にとって初めてのサウスポーの選手でした。
身長は僕よりも少し高かったかな?それでも同じ階級だからそんなに差はない。
試合前、先輩からサウスポーはこうして攻めろと作戦を聞きましたが、まだ自分が未熟でその話を理解するだけの技術がありませんでした。
試合前の恐怖感がずーっと僕の背中に張り付いているようで、なかなか人と話すことも出来ませんでした。
「緊張はゴングが鳴るまでや。ゴングが鳴ったら忘れるわ。」
以前、K大学のN君に言われたことを思い出して、自分に言い聞かせました。
タラップを昇り、選手紹介の後、握手をして試合開始。
ほんとうにその時も、恐怖心は吹っ飛びました。
サウスポーなので、パンチが出てくる方向が違うので戸惑いました。
先輩のアドバイス通り動こうとしますが、自分が未熟なのと、相手が1枚も2枚も上手なのでうまくいきません。
相手は、打っては離れ、離れては打つ、ヒット・アンド・ウェイ。
1ラウンドが終わって、コーナーに戻ってきたとき、ポイントを取られている事は自分でも分かりました。
僕のパンチは当たりはするものの、クリーンヒットではありません。
2ラウンド目早々、僕の右ストレートが相手のボディに入り、「うっ・・・。」という声を聞きました。
当たった。僕のパンチが初めてクリーンヒットした瞬間でした。
ボディ打ちなんか殆ど練習していなかったのに、打てるものなんだなぁと思っていました。しかし、相手は直ぐに足を使ってまわっていきました。
やっぱりうまい。前に出る事しか練習していなかったので、追いかけても、追いかけても捕えられません。それでもスタミナにモノを言わせて追いかけました。
このままでは、負けてしまうと思い足を止めることなく攻めましたが、2ラウンド終了のゴング。このラウンドもポイントを取られたと思いました。
3ラウンド目になると、相手も出てきました。
クリーンヒットの数では、完全に相手の方が多いけれど、きっちり決着をつけたかったのでしよう。
僕の望むところの打ち合いになりました。打ち合ったら絶対に負けないと自分には自信があったのでガンガン打ち合いました。
すると、また相手が足を使い出し、僕が追いかける展開になりました。「何で打ち合ってくれへんねん!」心の中で思いました。僕が攻め続けていく中で、相手のスタミナが切れてきているのが分かりました。後もう少しで掴められる。
と、思った時に試合終了のゴングが鳴りました。結果は分かり切っています。
これが、僕の初黒星です。

試合後、悔しくて、情けなくて、腹が立って頭からバスタオルを被ってベンチで項垂れていました。
泣いてたまるかと、思っていましたが、何かが頬を流れるのが分かりました。
その後は、ただただ脱力感だけが身体に重く圧し掛かってきました。F君がデビュー戦で負けた時は、こんな気持ちだったんだろうな、悔しかったやろうなと初めて思いました。それでもF君は僕の試合の時も、先輩の試合の時も一生けん命手伝っていたな。F君の心の強さを感じました。
僕の試合後も先輩の試合や同期のF君の試合があるので、自分勝手な事は出来ません。
でも、何をどうしていたかは、今も思い出せません。かなりのショックでした。