至誠通天

良い行いも悪い行いも、お天道様はご照覧

これからどうしよう?

初めて試合に負けて、かなりのショックでした。
デビュー戦や2戦目のような体に受けるダメージはそれほどありませんでしたが、心のダメージは相当でした。
ずーっと勝ち続けれないのは分かっていたつもりですが、やはり悔しい。
それでも朝のロードワークは毎日走っていたし、練習も毎日行っていました。もう負けたくない。その気持ちが日に日に強くなってきました。

そんな時に、追い打ちをかけるようなことが起こりました。
毎月、自分が持っていたら使ってしまうからと、新聞配達で稼いでいた給料を、おやじに預かってもらっていたのですが、後期の学費を払う時期になって、その学費が払えないと言う。
「何でやねん」

家は町工場をしていました。
僕のおじいちゃんが興した会社です。おやじが現場責任者でした。
会社といっても、零細企業でしたが、昔は今のNTTと直接取引があるぐらいの規模だったらしいです。
職人さんもおられ、その方たちに給料を払わなければなりません。
仕事がどんどんなくなって来て、売り上げがどんどん下がり、経営はかなりしんどい時だったようです。
その会社の経営が苦しくなっていた事は知っていましたが、いたたまれない気持ちでした。
「何で俺が一生懸命新聞配達をして、稼いできたお金を勝手に使うねん。」というと、おやじは、「職人さんに給料を払わなあかん。売り上げが少ないからお前から預かったお金をまわした。」と言いました。

「学費を払わなかったら、学校を辞めなあかんやん。」

「・・・・・」
おやじも辛かっただろうけれど、僕も頭に血が上ってかなり責めました。
でも、しょんぼりしているおやじを見ていると、もうこれ以上、責めたらだめだと思いちょっと冷静になりました。
「そこまで、会社の経営がしんどいねんやったら、俺働くわ。休学したら学費は半分でいいからとりあえず休学の手続きをしてくる。」
と、言って話を終わらせました。半額と言ってもそこそこの額になりますがとりあえず大学に籍は置いておきたかったので、そうするしか方法は浮かびませんでした。

休学の手続きは直ぐに出来ましたが、ボクシング部の皆に迷惑をかけてしまうのがとても気になりました。部員の皆は僕の事を本当に心配してくれました。有難い事です。
僕は、休学したってボクシングを辞める気は全くありませんでした。
だから、昼はアルバイトをして、夜はプロのジムで練習しようと考えていました。
プロの選手はみんなそうやって頑張っているんだ。俺にも出来るはずだと思いました。
残念ながら、新聞配達は休学を決めた月で辞めさせてもらいました。