至誠通天

良い行いも悪い行いも、お天道様はご照覧

プロテスト合格

テスト会場は、今は在るか無いか分かりませんが、大阪市西成区にあるグリーンツダジムでした。赤井秀和君や井岡弘樹君、そして亀田兄弟が所属していたボクシングジムです。ジムの面積も広く設備も整っていました。

プロテストはスパーリングで決まります。O君の出番が来ました。滅茶苦茶緊張している様子で、何度も頭をかきむしっていました。ヘッドギヤーをかぶり、グローブをつけてリング上へ。

スパーリイグは2R行われます。多分、スタミナがもたないので、途中でストップがかけらるだろうと予想していましたが、1Rは、左が当たり、相手の弱さにも助けられ、盛り上がりはなかったものの、ポイントは取っていたと思います。2R目は、両者とも盛り上がりがなくタイムアウト。プロテストのスパーリングの基準は、アグレッシブ、技術、スタミナの3点。技術が無いのはみんな同じだが、スタミナがなく途中でばてるようなときは直ぐにストップがかけられます。スタミナとプラスしてアグレッシブ。どう見ても二人とも不合格だろうと思っていました。でも、火曜日の新聞を見ると何と何と、O君が合格しているではないか。「嘘やろう。何でや」その後に?マークが何個も付くぐらいびっくりしました。でも、これでO君はプロボクサーになったのでした。

今までもプロテストの番狂わせは見てきましたが、今回は合格の基準が分からない。アグレッシブ、技術、スタミナどれを見てもプロでいけるレベルではないと僕は判断していました。O君には悪いが、プロテスト不合格がボクシングを諦めさせる良い機会だと考えていたので、他の作戦を考えなくてはならなくなりました。O君の他にも何人も選手をかかえていたから、O君一人の面倒を見るわけにはいかないので、話をする機会も段々減って来ていました。

そんなある日、会長から呼ばれて事務所へ行きました。「Oに試合をさせる」と言う。それまでにも会長には、O君はボクシングを辞めさせた方がいい、いや、辞めさせなければいけないと言い続けて来たのに、試合をさせるとはどう言う事や。と、会長に聞いてみたら「フライ級でデビュー戦同志の話が来たのであいつを選んだ。これで辞めさせてくれ」。「試合をさせる前に辞めさせる方がいいでしよう。試合をしたらケガしたり、ダメージが残ったりするので試合させるのは反対です。」「あいつが直訴して来よったし、もう引き受けた。これで辞めさせてくれ。辞めさせるのはお前の役目や」、正直勝手な事を言いやがってと思いましたが、暫く考えて仕方ないと引き受けました。引き受けてからも「辞めさせる」「ケガをさせない」「勝たせる」「勝たせたら辞めない」そんなワードが頭の中でグルグル回っていました。「何をそうすればいいのだろう」。