至誠通天

良い行いも悪い行いも、お天道様はご照覧

メガトンパンチのS君

KR君と同じ時期にみていたのがS君でした。S君は、下半身が強く、運動神経が良くてロープを跳んでいても、芸術的な跳び方をしていました。当時会長にサウスポーのKR君とS君を一緒に面倒をみてくれと言われたが、ふたり一緒だと共倒れになるので一人に決めたいとお願いした。そして僕が選んだのはS君だった。KR君は相変わらずずぼらな性格で練習に身が入っていないから、いい加減嫌になっていた。そこへ、KRは俺がみると言うトレーナーがでて来たので、そのトレーナーにお任せした。

その当時、すでにS君は結婚していて、子供もいました。戦績ははっきりとは覚えていないが、負け星の方が勝ち星より多かった。そして、KR君と一緒に新人王に出場することになりました。それもあって二人は見れないと言ったのでした。S君は先にも書きましたが、とても運動神経がよく、下半身が強い。素質もあるのになぜ勝てなかったかを考えてみました。彼はもともとJ・ライト級(現S・フェザー級)の体格で、それほど大きくもなく、特徴のある選手ではありませんでした。顎が弱く、スタミナがない。だからKO負けが殆どだったです。

僕はそんなS君を新人王にするために、僕自身もトレーナーとして今までとは違う教え方をする事にした。それは「怒鳴らない事」。仮にも嫁さんも子供もいる、一家の大黒柱になったS君が、いくらトレーナーと選手の間とは言え、ぼろくそに言われては、プライドが傷つくだろう。まずやる気を出さすためにそう決めた。そして、スタイルの大改造。S君はそれまで一般的なボクサーファイターで、身体を起こして戦って来ていた。そうではなくて、完璧なファイターにして、小ささを武器にする事。S君はジムの仲間同士でJ・ウェルター級(現スーパーライト級)にエントリーすることになったからだ。2階級も上げてどないすんねん。と、思ったけれどエントリーしてしまったので、ファイターにする事にした。下半身が強いので、低い姿勢でウィービングやダッキングが使える。運動神経がいいので、パンチも外せる。問題は、スタミナとメンタル面。まずスタミナ。彼は運送会社にいて、トラックの運転手をしていました。時間が不規則でロードワークをする時間が取りにくい。だから、瞬発力も付けるために、ロープダッシュと、階段ダッシュを練習メニューにいれた。

彼はついてきてくれた。必死についてきてくれた。スタミナもついてきて、それに連れてメンタル面も強くなってきた。ジムワークも段々激しさを増し、周りの練習生たちがず~っと見とれてしまうほどでした。日に日に成長しているのが分かるぐらい、凄まじいものがあり、トレーナーとしても嬉しい限りでした。